研究倫理ってなに?
―研究者の伴走者として―(Version 1.0)

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担当:戸田聡一郎

このページを訪ねていただいてありがとうございます。私はプロコール作成支援部門に所属し、研究倫理を担当しております。ですがそもそも、皆さんは――研究者の方々も、一般の方々も――「研究倫理」って何だろう?研究倫理という学問分野があるの?と思われるかもしれません。研究倫理とは、「応用倫理学」の一分野で、一応、権威ある『生命倫理百科事典(1995)』では次のように規定されています「(『生命倫理百科事典』)」。

皆さんが「研究倫理」から連想されるイメージは、たとえば、論文の「捏造」や、「改ざん」や、「盗用」などでしょう(それぞれの英単語の頭文字を取って慣例として「FFP」と呼びます)。そのような研究の「規制」に関わる分野ももちろん、研究倫理の重要な一側面です。あなたのプロトコール(研究計画書)はガイドラインや指針・法令を遵守しているか、そしてもし抵触するのであれば、それはプロトコールのどの部分においてか、などなど。これらの指針・法的な規制(縛り)を検証することに加え、「研究倫理」では、もっと幅の広いケースを扱います。たとえば、

  • 「研究のプロトコールに見合った、適切なインフォームド・コンセントの取得方法(もし日本に数人しかいらっしゃらない患者さんのプライバシーを、同意の時点、そして同意取得以降において、どのように保護すればよいかなど)」
  • 「弱い立場にある研究参加者(vulnerable participants)の保護の程度(を測るにはどのような手法を用いればよいのか)」、
  • 「研究に参加することにより、受けるリスクが利益を上回ると判断されるべき場合、どのような観点・基準から、リスクは利益を上回る、と判断されるのか。また、それに伴い「最小限のリスク(minimal risk)」と「許容されるリスク(acceptable risk)」はどのように定義可能か」

など、皆さんが研究を実施するうえで、その科学的価値や科学的有用性とは別途、守らなくてはならない、「倫理的責務(ethical obligationといいます)」について検討を加える営為もまた、研究倫理の一側面と言えましょう。

逆に言えば、特に多くの一般の方々は、「研究とはどのようなもので、患者さん方(あるいは将来患者となりうる人々)は、研究参加にあたって何を前提にお医者さんと話すべきか」についてあらかじめ意識できる良い機会となります。

そのような意識のもと、これから一連のエッセイを皆さんと共有したいと考えております。確かに研究倫理を語るということは容易な作業ではなく、科学技術社会論(STS)や哲学、正統派の倫理学の知識を総動員しなくてはなりません。しかしそこを平易に皆さんに伝えなければ、最初の目的――「「研究倫理」ってなに?という問いに答えること」――は達成できません。その場合、すべての責任は筆者にあることを明記しておきます。なぜなら私は研究者や参加者の方々と伴走することが責務だからです。指針などに書かれてあることを遵守することを確認する「ハードな支援」を空転させないように、これから「良い研究」を目指すため、一緒にさまざまな問題あるいは事例について考えていきましょう。いきおい概念的な思考方法が必要となりますが、「研究とは何か」という遠大な課題に取り組むことの醍醐味を味わうことができるはずです。